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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1748号 判決

大阪市中央区淡路町二丁目二番九号

原告

株式会社ニチイ

右代表者代表取締役

小林敏峯

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

山上和則

右輔佐人弁理士

辻本一義

三重県四日市市日永東三丁目一四番三一号

被告

合資会社山利

右代表者無限責任社員

儀賀利三郎

右訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

右輔佐人弁理士

瀧野秀雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙目録(一)記載の製法を用いて豆乳用フレークを製造し、販売してはならない。

二  被告は、その所有する前項記載の豆乳用フレークを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金四三二〇万円及びこれに対する平成五年三月四日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告の権利

1  原告は、次の特許権(以下、特許請求の範囲1項記載の発明を「本件発明」という。)を有している(争いがない)。

発明の名称 豆乳製造に好適な食品の製法と製造装置

出願日 昭和五七年五月一四日(特願昭五七-八二一八二号)

出願公告日 昭和六一年一〇月二七日(特公昭六一-四八九〇〇号)登録日 昭和六二年五月二八日

登録番号 第一三七八七四二号

特許請求の範囲

「1 ブラッシングによって原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去したのち、当該原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう水分量の調整をし、これを皮と身とに分離すると共に、身を4ツ割から8ツ割に処理して得た粒状物を圧扁ローラーにて満べんなく分散されたフレーク状に構成したことを特徴とする豆乳製造に好適な食品の製法。

2  原料大豆からホコリ等を分離するセパレーター5に当該原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するためのブラッシングマシン7が連設され、上記ブラッシングマシン7には当該原料大豆の水分量を調整するためのバンド乾燥機13を連設し、上記バンド乾燥機13には原料大豆を4ツ割から8ツ割すると共に皮と身とを分離する脱皮機21が連結され、上記脱皮機にはセパレーター23を介して分級器24が連結され、上記分級器24には圧扁ローラー36が連結されていることを特徴とする豆乳製造に好適な食品の製造装置。」(以下「本件特許請求の範囲」という。添付の特許公報〔以下「公報」という。〕参照。)

2  本件発明の構成要件

本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

A ブラッシングによって原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去すること。

B その後、原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう水分量の調整をすること。

C その後、これを皮と身とに分離すると共に、身を4ツ割から8ツ割に処理して粒状物を得ること。

D その後、右粒状物を圧扁ローラーにて満べんなく分散されたフレーク状に構成すること。

E 豆乳製造に好適な食品の製法であること。

3  本件発明の作用効果

本件発明は、左記の作用効果を奏する(公報4欄4行~32行)。

イ 従来豆腐豆乳業界で最も管理困難な丸大豆の洗浄、水浸漬、グラインダー工程が不要である。

ロ 豆腐、油揚、豆乳の製造工程が短縮され、即応性に富み計画生産が出来る。

ハ コクと旨味のある色沢良好な安定した製品が得られる。

ニ 諸設備が簡略化され豆洗浄装置、浸漬槽、グラインダー等が不要になり、工場スペースを有効に利用出来る。

ホ 上下水道、電力、労力が節減出来、特に廃水処理費が軽減される。

ヘ 原料大豆の精選工程でブラッシングされ脱皮されるため、従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去出来なかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来、従って製品の日持ちがよく衛生的である。

ト おからも従来のものと比べ衛生的且色沢良好で各種食料品の増量材として利用出来る。

チ 含有する水溶性蛋白質を熱変性することなく水分量を調整する工程を有するので加熱による蛋白質の変質といった問題を解決し、かつ、身と皮の分離を容易に出来る。また、厚さ〇・二mmの薄いフレークも長期貯蔵に耐えるものとすることが出来る。

二  被告の行為

1  被告は、昭和六一年四月頃から、業として、大豆をフレーク状に加工した製品(商品名「加工大豆ソイプロ」〔甲一五の2〕、以下「被告製品」という。)を製造販売している(争いがない)。

2  被告製品の製造方法

被告製品の製造方法(以下「イ号方法」という。)及び被告製品が本件発明の目的物に該当するか否かについては当事者間に争いがある。イ号方法について、原告は、別紙目録(一)記載のとおりであると主張するのに対し、被告は別紙目録(二)記載のとおりであると主張するが、後記争点以外は、イ号方法が本件発明の構成要件を具備していることに争いがない。

三  請求の概要

イ号方法が本件発明の技術的範囲に属することを理由に、〈1〉 イ号方法を用いた被告製品の製造・販売の停止及び被告所有の被告製品の廃棄と、〈2〉 被告製品の製造・販売により原告が被った本件特許発明の実施料相当額の損害金四三二〇万円の賠償を請求。

四  争点

1  イ号方法は本件発明の技術的範囲に属するか。すなわち、

(一) イ号方法は、本件発明の構成要件A(以下「ブラッシング処理」という。)の構成を具備しているか。

(二) イ号方法は、本件発明の構成要件Cの「身を4ツ割から8ツ割に処理」の構成を具備しているか。

(三) 被告主張の「選別大豆」は、本件発明の構成要件A・Bの「原料大豆」に該当するか。

(四) 被告製品は、本件発明の構成要件Eの「豆乳製造に好適な食品」に該当するか。

2  1の(一)ないし(四)が全て肯定された場合、被告の負担すべき原告に生じた損害金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(一)(「ブラッシング処理」の構成を具備しているか)

【原告の主張】

本件発明の構成要件Aの「ブラッシング」とは、ブラシと大豆あるいは大豆と大豆を相互に摩擦接触させることを意味する。被告はイ号方法ではこの「ブラッシング」が行われない旨主張するが、本件訴訟を本案訴訟とする証拠保全(津地方裁判所四日市支部平成四年(モ)第二二八号証拠保全申立事件)として実施された、被告肩書住所地所在の工場内に備え付けられている被告製品の製造装置の検証時において、相手方立会人は、「原料大豆は、原料タンクから篩い分け(写真〈2〉)(※「ロータリーシフター」)をした後、乾燥機(写真〈3〉)(※「余熱槽」)の中を落下し……」と指示説明した(検証調書三3)。

この被告使用のロータリーシフターに関し、特公昭五九-三三〇三一号公報(甲七)には、粉体粒子中の粗大粒子、毛羽、あるいは砂等の粗大な粒子を細かな粉体粒子と選別するためにロータリーシフターを用いる技術が示されており、また、実公昭六三-五七七四号公報(甲八)には、密閉ケース内に傾斜して配置された篩い枠にロータリー運動(水平回転運動)を与えることによって、白米粒子に流下作用とロータリー作用を加え、白米粒子相互間及び白米とスクリーン間の相互摩擦作用によって、白米粒子の表面に付着した糊粉層の微粉等を離脱させて研磨する装置が示されており、更に、特公平一-五九〇一九号公報(甲九)及び特公平二-二七〇一九号公報(甲一〇)には、川底等から採掘した土砂を水洗した時に生じる砂が混入した混合水から沈殿砂を水や泥と篩い分けて採取する「ロータリー分級器」が示されている。これらのロータリーシフターが軸を中心として水平回転運動を行うことによって、篩いにかけて所望の目的物と取り除かれるべき夾雑物とを選り分ける機械であることは明らかである。また、特公昭五九-四四〇二二号公報(甲一一)に「まず洗浄装置Aにおいて原料タンク1から一定量の大豆を取り出してコンベヤ等の移送手段により研磨機2に送り込み、ここで大豆表面をブラッシングしつつ付着した塵埃を除去する。この研磨機2には、様々な手段が採用できるが、内面にブラシを設けた円筒部材中に該大豆を導入し、該円筒部材をローリングしてブラシと大豆あるいは大豆と大豆を摩擦接触させて該大豆表面をブラッシングする手段が簡単でもあり大豆を破損せずしかも余分な水分を与えない点で望ましい。」(3欄29行~38行)と記載されている。このように、ロータリーシフターのローリング(回転運動)作用によって、大豆と大豆を相互に摩擦接触させることにより、大豆表面から塵埃等を除去することも本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」に包含される。

被告は、イ号方法において使用されている原料大豆は米国産選別大豆である旨主張するが、検証時において相手方立会人も「『選別大豆』であっても、袋詰めされた大豆にはゴミや不純物が少しは混入しているかもしれない。」と指示説明しているから(検証調書三1)、イ号方法において使用されている原料大豆の大豆表面にも「土壌や土壌菌」が付着している可能性は決して否定できない。そして、同立会人は「大豆が原料タンク及び乾燥機の中を落下する途中で、大豆同士が擦れ合うことによって出来る皮や埃等は、ブロアー(写真〈5〉)(※「加圧ファン」)で吸い取り、吸い取ったものを下の部分に収納する。」と指示説明している(検証調書三3)。したがって、イ号方法は、原料大豆の篩い分けにロータリーシフターを用い、ロータリーシフターの回転する篩いと大豆、あるいは大豆と大豆同士が相互に摩擦接触することによって原料大豆の表面に付着している土壌や土壌菌を除去するという作用効果を奏しているのであるから、その点において構成要件Aの「ブラッシング処理」を行う本件発明と実質的には何の変りもなく、イ号方法においても本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」を行っているといえる。したがって、イ号方法は、本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」の構成を具備している。

【被告の主張】

原告は、本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」には、「大豆と大豆を相互に摩擦接触させること」も含まれる旨主張するが、本件特許出願願書添付の明細書には、そのことを開示しあるいは示唆する記載は一切なく、かえって、発明の詳細な説明には、「原料大豆からホコリ等を分離するセパレーター5に当該原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するためのブラッシングマシン7が連設され」(公報2欄23行~26行)、「ブラシマシン7で土壌及び土壌菌を除去」(公報3欄10行~11行)と明記されている。原告は、本件特許以外の特許又は実用新案に係る公報(甲七~一一)の記載を引用し、それらの記載からすると、イ号方法でもロータリーシフターの作用によって大豆粒同士が相互に摩擦接触し、その表面から不純物、夾雑物を除去し分離する、その故に、イ号方法でもロータリーシフターの使用により本件発明と同様に原料大豆に付着している土壌や土壌菌の除去の作用効果を奏している旨主張するが、右甲号各証においては、そこに記載の各具体的作用効果を発揮させるものとしてのロータリーシフターないしは篩い枠若しくはロータリー分級器が示されているのであって、それはそれでそれなりの作用効果を奏しているのであろうが、このことをもって直ちにそれらに示された装置とイ号方法におけるロータリーシフターとを同一に論じることは誤りである。本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」とは、その字義どおり、土壌や土壌菌(耐熱性細菌のことである。公報4欄18行~19行)を除去するブラシと大豆が接触している構成を意味するものと解すべきである。

この「ブラッシング処理」の有無について、イ号方法と本件発明とを対比すると、イ号方法では、米国産選別大豆の篩い分けに使用されているロータリーシフターには大豆と接触しその表面に付着している土壌や土壌菌を除去するブラシそのものが存在せず、「ブラッシングによる土壌や土壌菌の除去」という作用効果を奏していないから、イ号方法に用いられているロータリーシフターは、本件発明の構成要件Aの「ブラッシング」処理を行っているということはできない。被告がイ号方法を実施する際に使用しているのは、株式会社淺野鐵工所製のST-五二型ロータリーシフターであるが、その設置目的、構造及び作用効果は次のとおりであり、この機械は、古くから小麦粉や飼料等の粉末の篩い分けのために使用されている機械である。そして、イ号方法では、原料大豆として既に異物との選別を済ませた「米国産選別大豆」を使用しているが、それでもなお時にその中に異物が混入している場合があるため、そのチェックも兼ねて右機械で篩い分けをしているのであり、右ロータリーシフターは単純な篩い機として使用しているのであって、原告主張のように大豆粒同士が相互に摩擦接触し合うとか、大豆表面から不純物や夾雑物が除去されるという作用効果は全く奏していない。詳細は次のとおりである。

1 設置目的

イ号方法の原料大豆となる「米国産選別大豆」とは、粒径が七・三ミリメートル以上又は五・〇ミリメートル以下のもの及び異物を排除した大豆であるが、なお安定した最終製品を得るために、粒の大きさを揃える必要と、異物混入の再チェックのための篩い分けを目的として設置している。

2 構造

別紙図面に示すとおり、木製網枠の上側にある上網は、直径一〇ミリメートルの円孔を開けたパンチングメタル又は短径四・二ミリメートル、長径一九ミリメートルの楕円孔を開けたパンチングメタル、木製網枠の下側にある下網は、線径一・六ミリメートルの鉄線で二・二メッシュであり、この上下の網の間に目詰り防止ボールを介在させた構造の網枠を、一個ずつ六個の篩枠に収納し、この篩枠を上から下に六段設置し、この篩枠の各点が一分間に一八〇回半径三〇ミリメートルの円内を水平回転運動する構造となっている。

3 作用効果

選別大豆は、上部の入口から適量ずつ落下される。篩枠がゆっくり回転しているので、大豆は上部の篩から下部の篩へと順次落下してそれぞれの出口から流れ出る。まず、上部二段の篩により、直径一〇ミリメートルの網目をパスしなかった大粒の大豆又は異物が排除され、次に、この二段の網目をパスした大豆は、下部の四段の篩により直径一〇ミリメートルの円孔を開けた上網をパスし、短径四・二ミリメートル、長径一九ミリメートルの楕円孔を開けた上網をパスしなかった中粒の大豆のみが取り出され、それが原料大豆として使用される。そして、短径四・二ミリメートル、長径一九ミリメートルの楕円孔の網目をパスした小粒の大豆、割れた大豆及び異物が排除される。

このようにして、原料大豆として最適な中粒の大豆のみがロータリーシフターで選別できるが、この中粒の大豆には、それと同じ程度の大きさの石や鉄等の異物が混入しているおそれがあるので、この中粒の大豆をさらにロータリーシフターの下部に設置されている比重選別を行う「石抜機」にかけてそれらの異物を完全に除去する。

以上のとおり、イ号方法で使用しているST-五二型ロータリーシフターは、原料大豆である米国産選別大豆を中粒の大きさに揃えるために単純な篩い機としてだけに使用しているのであって、原告の推測するような大豆表面に付着している土壌や土壌菌の除去の作用効果を全く奏していない。もし仮に、右ST-五二型ロータリーシフターで原告主張の「ブラッシング処理」が行われているとすれば、その場合、ロータリーシフター本体内で流動中の大豆から分離した土壌、ほこり及び細菌等を除去するために、別途強力な風力選別を行う排塵装置を付設する必要がある。何故ならば、そのような排塵装置がないと大豆表面から分離した土壌、ほこり及び細菌等が再度大豆表面に付着してしまい、「ブラッシング処理」の効果を期待できないからであり、そのことはこの種技術分野の当業者の間では当然の技術常識となっている。ところが、イ号方法で使用されているST-五二型ロータリーシフターにはそうした排塵装置が付設されておらず、そのことからもイ号方法が「ブラッシング処理」を行っていないことが十分裏付けられる。

そして、このようにイ号方法では、ロータリーシフターによる篩い分けによっては、原料大豆の表面に付着している土壌や土壌菌を完全に除去することができないため、被告は、別途大豆蛋白が熱変性を起こさない、摂氏八〇度から一〇〇度の範囲内の温度の熱風で、二ないし三分間程度の僅かの時間、大豆表面だけを加熱処理する工程を付加することにより、高熱に弱い一部の土壌菌を除去する(大半の土壌菌や耐熱芽胞菌は「脱皮」の工程で除去される。)とともに、大豆に含まれる油脂分を酸化させる触媒能を持つ酵素といわれるリポキシゲナーゼ(リポキシダーゼともいう。)が熱に比較的弱い性質があることを利用して、その働きを失活させることにより、製品の味や貯蔵性を良好なものとしているのである。

なお付言するに、原告は、甲第一四号証(株式会社淺野鐵工所製のST-五二型ロータリーシフター所載のカタログ)中の〈1〉「ロータリーシフターの用途と作用」の欄の「◇粒状製品の研磨効果」の項に、「粒状製品はふるい分け過程で粒相互の粒々研磨作用が働いて表面が磨かれ美しい製品となります。」との記載があること、及び〈2〉「網枠の構造一例」の欄に掲げられた図面の説明中に「目詰防止用ブラシには平型ブラシ、ボール型ブラシがあります。」との記載があることを理由に、右ロータリーシフターが本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」の役割を果たしている旨裁判所に印象づけようとしているかのようである。しかし、右〈1〉の記載は、単に大豆粒同士が触れ合って磨かれるという自然現象を記述しているにとどまり、それ以上に右ロータリーシフターに原料大豆をブラッシングするためのブラシが存在し、かつ、それが大豆と摩擦接触していることを示す記載は全くない。また、右〈2〉の記載からは、右ロータリーシフターに目詰防止用ブラシが存在することは読み取れるが、右目詰防止用ブラシは、ロータリーシフターの篩い網の目詰りの防止機構にすぎず、もし原告が右記載を根拠に右目詰防止用ブラシが大豆と摩擦接触し大豆表面をブラッシングしていると主張しようとするのであれば、それは牽強付会に過ぎる。

以上のとおり、イ号方法が本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」の構成を具備していないことは明らかである。

二  争点1(二)(「身を4ツ割から8ツ割に処理」の構成を具備しているか)

【被告の主張】

イ号方法においては、大豆の身を10ないし15割に粉砕して大豆の粒状物を得るのであり、これが最終製品(被告製品)である。したがって、イ号方法は、この点において、本件発明の構成要件Cの「身を4ツ割から8ツ割に処理」の構成を具備していない。すなわち、イ号方法で得られる豆腐用フレークは、小規模経営の豆腐屋が使い易いように従来から使い慣れているフレーク(製油メーカーが出荷している豆腐粉)と同内容の製品であり、イ号方法では、このように大豆の身を10ないし15割にすることによりその圧扁作業の能率も良く、フレークがしっかりしていて壊れないし、フレークが揃った状態で製品をユーザーに届けることができ、ユーザーもそれを望んでいるのである。そして、右フレークによって製造される豆腐は美味で販売単価も高いものとなる。これに対し、本件発明によって得られるフレークは豆乳用フレークであって、その場合には大豆の身を4ツ割ないし8ツ割にしたフレークで足りるのである。

原告指摘の検証調書の検証結果欄の記載は、最終製品の身の割れ数についての記載ではなく、同調書の当事者の指示説明欄(三6・7)を併せ読むと、大豆を一次的に分割することを目的とした「三連の石臼状の機械の内部に残存していた大豆」の身の割れ数についての記載であり、この石臼状の機械で挽いた大豆は、その後、粉砕ロールでさらに二次的に細かい粒状にしてから圧扁機に入ることが明らかである。したがって、この点に関する原告の主張は誤解に基づくものというほかはない。

【原告の主張】

イ号方法の粉砕によって原料大豆の身が4ツ割から8ツ割のものを残さず、全て被告主張の「10ないし15割」になるとか、「10ないし15割」にすると出来上がった豆腐が美味であるなどということは、いずれも到底考え難いことである。現に、検証調書の検証の結果の欄(四3)には、被告製品の最終製品の身の割れ数について、「分割後の大豆の大きさは、大きいものは半分程度のものから、幾つか複数に分割されたもの、細かいものに至っては白い粉状になったものまでが混在しており、様々な形状と数に分割されていた。」と記載されており、右記載は原告の右主張を裏付けるものである。

また、豆乳用フレークは、その身の割れ数が多くなり、形状が小さくなって粉状になればなるほど、水に溶こうとしたとき均質に溶けないで粒状の塊(ダマ)を生じ、ムラ炊きが起きて製品の歩留りが低下する。本件特許発明において「身を4ツ割から8ツ割に処理」するのは、かかるダマが生じるのを避けるためである。したがって、身の割れ数を「10ないし15割」にするとする被告の主張は理由がない。

さらに、原告製品と被告製品の現品を対比して見ても、両者の身の割れ数に実質的な差異はない(甲一五の1)。

三  争点1(三)(「原料大豆」の意義)

【被告の主張】

イ号方法で使用するのは単なる「原料大豆」ではなくて、この種業界で「選別大豆」と称される種類の大豆である。すなわち、単なる「原料大豆」は夾雑物が多く混入しているのに対し、「選別大豆」はゴミ、石及び身の割れた大豆等を既に除去したものであり、その点で「原料大豆」とは明らかに異なる。したがって、イ号方法の「選別大豆」は本件発明の構成要件A・Bの「原料大豆」に該当しない。

四  争点1(四)(被告製品は「豆乳製造に好適な食品」に該当するか)【被告の主張】

イ号方法は「豆腐用フレーク大豆」の製法であるのに対し、本件発明は「豆乳製造に好適な食品」の製法である。したがって、イ号方法は本件発明の構成要件Eを充足しない。すなわち、本件特許出願願書添付明細書の発明の詳細な説明には、「豆乳製造に好適な食品」の製法を提供することをその解決すべき技術的課題として掲げ、次いで従来技術では、大変手間がかかって、「家庭で豆乳を製造することは不可能と言っても過言ではない。」と述べ、本件発明の作用効果として、豆乳製造に好適な食品すなわち豆乳用フレーク大豆が得られたことを強調している。したがって、「豆乳製造に好適な食品の製法であること」という本件発明の構成要件Eは、本件発明の必須の構成要素となっている。

原告は、豆乳は豆腐の原料であって、豆腐を作る際には必ず豆乳の段階を経由するのであるから、「豆乳用フレーク大豆」と言うも「豆腐用フレーク大豆」と言うも、その意味することに実質的に変りはない旨主張するが、本件発明が「豆乳製造に好適な食品」(フレーク大豆)を得ることを必須の構成要素としていることと、フレーク大豆を加工して豆乳を得、更にこれを加工して豆腐を作れるということとは別問題である。ましてや、美味な豆腐の製造を目的とし、大豆の身の割れ数をも異にするイ号方法によって得られるフレーク大豆をもって、本件発明の構成要件Eの「豆乳製造に好適な食品」に該当するということはできない。

【原告の主張】

豆乳は豆腐の原料であって、豆腐を作る際には必ず豆乳の段階を経由するのであり、被告製品のフレーク大豆も、実際に使用される際には、一旦、豆乳と「おから」に分けられ、この豆乳から豆腐が作られるのであるから、「豆乳用フレーク大豆」と言うも「豆腐用フレーク大豆」と言うも、その意味するところに実質的な差異はない。したがって、両者を区別して論じる被告の主張はそれ自体失当というべきである。

五  争点2(被告が負担すべき損害賠償金額)

【原告の主張】

被告がイ号方法を用いて製造した豆乳用フレーク大豆は、互明商事株式会社(以下「互明商事」という。)が一手販売しているが、その年間販売高は一二〇〇トンを下らないものと推認される。そして、互明商事の右豆乳用フレーク大豆の販売価格は一キログラム当たり一二〇円であり、本件特許の実施料率は販売価格の一〇%が相当である。したがって、原告は、次の計算式のとおり、被告の本件特許侵害行為により、訴状送達日(平成五年三月三日)から過去三年間に遡り、合計四三二〇万円の実施料相当の損害を被ったことになる。

120円×1200000×3×0.1=43200000円

【被告の主張】

原告の損害主張は全て否認する。被告がイ号方法を用いて製造しているのは豆乳用フレーク大豆ではなくて豆腐用フレーク大豆であるから、正確には被告の豆乳用フレーク大豆の販売高なるものはない。なお、念のため付言するに、被告がイ号方法を用いて製造し互明商事に販売した豆腐用フレーク大豆の販売量は、昭和六一年四月から平成五年二月までの七年間に合計二二〇トン(年間平均約三一トン余り)程度にすぎず、これは原告主張の数量にはほど遠い。

第四  争点に対する判断

一  争点1(一)(「ブラッシング処理」の構成を具備しているか)

1  本件特許請求の範囲にいう「ブラッシング」の意義

本件特許請求の範囲には、「ブラッシングによって原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去し」と記載されているが、そこでいう「ブラッシング」の語の意義について考えるに、本件特許請求の範囲には右のように記載されているだけであり、本件特許出願願書添付明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明にも、実施例の説明箇所に本件特許請求の範囲の記載を殆どそっくり繰り返した「ブラッシングにより原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去し」(公報2欄11行~12行)との記載及び作用効果の説明箇所に「原料大豆の精選工程でブラッシングされ脱皮されるため、従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去できなかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来」(公報4欄16行~19行)との記載等があるだけで、他にこれを定義づける説明も全く見当たらない。しかし、一般に、特許請求の範囲に記載された用語は、明細書に格別の定義づけをする記載が存する等の特段の事情のない限り、通常の用語の理解に従って解釈するのが相当であるから(特許法施行規則様式29【備考】8参照)、ここに「ブラッシング」とは、本件発明の技術的内容を参酌しながら、一般の社会通念に合致した用語例又は語義及び当業者の常識的な理解に従って解釈するほかない。そうすると、一般に、「ブラッシング(brushing)」の語は、「髪の毛などにブラシをかけること。」(「広辞苑」第四版二二七二頁)、「ブラシ〔はけ〕をかけること。」(研究社「新英和大辞典」第五版二七八頁)を意味する言葉として普通に用いられているとともに、「ブラシ」の語も、「ごみを払ったり物を塗ったりする道具。はけ。」を意味する言葉としてごく普通に日常生活においても使用されている語である(「ブラシ」として通常の国語辞典にも登載されている。)。したがって、「ブラッシング」の語は、通常の用語としてみた場合、その意味内容を理解するのに困難とはいえない。また、技術用語としてみた場合にも、財団法人日本規格協会発行の「JIS工業用語辞典」(一九八二年一二月六日第一版第一刷発行)一〇六一頁登載の「ブラシ研磨 ぶらしけんま ブラッシング」の項には、「ピアノ線、ステンレス鋼線、黄銅線などを植えたブラシ又は研磨輪を使用して行う研磨方法」と解説されており、「ブラッシング」の語は、「ブラシを使用して行う研磨」を意味する成熟した術語として、当業者の間で広く認識されているものと認めるのが相当である。

次に、本件明細書において発明者ないし出願人が「ブラッシング」の語を使用した技術的意図について検討するに、本件明細書には本件発明の解決すべき技術的課題について、「本発明は新規な構成を有する豆乳製造に好適な食品の製法とこの製法を直接実現するための装置を提供しようとするものである。従来、豆乳の製法については原料大豆を「洗浄したのち浸漬(夏期では一〇時間から一五時間、冬期では一八時間から二四時間)し、これを粉砕、煮沸、炉過するなどの工程となっている。しかし、かかる製造工程であっては大変手間がかかる工程であることは当然であるが、水浸漬工程、粉砕工程(すなわちグラインダー工程)は一番のネックとなっている。ましてや家庭で豆乳を作ることは不可能と言っても過言ではない。本発明は、かかる問題を充分解決しようとするもので」(公報1欄23行~2欄8行)との記載があり、また、本件発明の作用効果について、「原料大豆の精選工程でブラッシングされ脱皮されるため、従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去出来なかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来、従って製品の日持ちがよく衛生的である」(公報4欄16行~20行)との記載がある。更に、本件発明の製法の実施に直接使用する装置発明に関して、本件特許請求の範囲2項には、「原料大豆からホコリ等を分離するセパレーター5に当該原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するためのブラッシングマシン7が連設され……」との記載があり、その実施例の説明箇所の「ブラシマシン7で土壌及び土壌菌を除去」(公報3欄10行~11行)の説明に対応する願書添付図面(公報3頁第1図)には、「ブラッシングマシン7」として略方形状の枠の中央部分に水平に記載された線分の上下に櫛の歯状に短い線が五本ずつ描かれており、それらは全体として「ブラシ」を備えた機械装置を図示しているものと理解される。以上本件明細書の記載及び願書添付図面の内容に照らすと、本件明細書では、「ブラッシングマシン」について、右第1図にも示されているように、ブラシを大豆表面に摩擦接触させこれを研磨することによって、そこに付着している土壌及び土壌菌を除去するように構成されている機械装置を念頭に置いて記述しているものといわざるを得ない。そして、以上の諸事実を総合して考えると、本件発明は、「ブラッシングマシン」に備えられたブラシを大豆表面に摩擦接触させることによってこれを研磨し、「従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去できなかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去」する作用効果を奏することができるという技術的思想に立脚するものと認められる。

以上によれば、本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」とは、前示の用語の普通の意味どおり、ブラシないしこれと同等の機能を有する器具を使用して行う研磨処理を意味するものと解すべきである。

2  イ号方法は本件発明の構成要件Aの「ブラッシング」処理の構成を具備するか。

証拠(甲一四、乙一~五、検証の結果)によれば、〈1〉被告がイ号方法の実施に際して米国産選別大豆の篩い分けに使用している「ST-五二型ロータリーシフター」は、別紙図面に示すとおり、木製網枠の上側にある上網は、直径一〇ミリメートルの円孔を開けたパンチングメタル又は短径四・ニミリメートル、長径一九ミリメートルの楕円孔を開けたパンチングメタル、木製網枠の下側にある下網は、線径一・六ミリメートルの鉄線で二・二メッシュであり、この上下の網の間に目詰り防止ボールを介在させた構造の網枠を、一個ずつ六個の篩枠に収納し、この篩枠を上から下に六段設置し、この篩枠の各点が一分間に一八〇回半径三〇ミリメートルの円内で水平回転運動をする構造であり、そのような構造が採用されている結果、右ロータリーシフターの内部を通過した大豆は、大中小の各粒形毎に選別回収されること、〈2〉豆腐・豆乳業界において大豆表面に付着している埃、土及び黴等を乾式の状態で取り除くことを目的として使用されている機械として、原田産業株式会社製の「大豆研磨・研米機(POLISHING MACHINE)」や甲第一一号証特許公報中に示されている研磨機(内面にブラシを設けた円筒部材)が存在するが、前者は、投入口から投入された原料大豆が固定スクリーンと一定速度で回転する六本の研磨ベルトとの間を通過する際、摩擦接触により大豆表面に付着している埃、土及び黴等を分離し、分離された埃、土、黴等は集塵機で補集される構造となっているし、後者は「大豆表面をブラッシングしつつ付着した塵埃を除去する」(3欄31行~34行)構成のものであること、〈3〉これに対し、「ST-五二型ロータリーシフター」では、右〈2〉の研磨ベルトに相当する大豆表面と摩擦接触しこれを研磨する部材が備えられていないだけでなく、もし右「ST-五二型ロータリーシフター」が原告の主張するように「原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去する」作用効果をも奏するものとすれば、それに伴って排出される、土壌や土壌菌が再度大豆表面に付着することを防止するために、それらを補集する右〈2〉の機械に設置されている集塵機に相当する装置の付設が不可欠であるが、右「ST-五二型ロータリーシフター」にはその種装置が付設されていないことが認められる(原告が指摘するブロアー(加圧ファン)はロータリーシフターに付設されているものではないことは検証の結果から明らかである。)。

以上の事実によれば、ST-五二型ロータリーシフターには、大豆表面と摩擦接触しこれを研磨する「ブラシないしこれと同等の機能を有する器具」が存在せず、篩枠に張られた篩網をもって「ブラシないしこれと同等の機能を有する器具」といえないことも明らかであるから、イ号方法ではこれを単純な篩い機として用いているものと認められ、右ST-五二型ロータリーシフターが大豆表面をブラシないしこれと同等の機能を有する器具を使用して行う研磨処理をする構造機能を有しないものというべきである。その結果、右ST-五二型ロータリーシフターは、本件発明の作用効果の一つである、「従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去出来なかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来」(公報4欄17行~19行)るという、その作用効果全部を達し得ないため、イ号方法では、本件発明の所期する右耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)の完全除去という作用効果を達成するため、別途、本件発明にはなく、その技術的思想を全く異にする、原料大豆を「加熱機により摂氏八〇度から一〇〇度で二ないし三分間加熱処理」するという構成をその工程中に付加しているものと認められる(乙一、検証の結果。なお、甲第一五号証の2に撮影されている被告製品を収納した大袋の裏面には、加工大豆ソイプロ〔被告製品〕の特徴として、真っ先に、「本品は厳選した良質の大豆を特殊な方法で熱処理を行い、皮・胚芽等を除いたうえフレーク状に加工したものです。」と記載されている。)。すなわち、本件発明がねらいとする耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)の完全除去という作用効果を得るために、本件発明はブラッシング処理(構成要件A)の構成を採用したのに対し、イ号方法はそれと技術的思想を明らかに異にする高温短時間加熱処理の構成を採用しているものと認められる。

したがって、イ号方法は、本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」の構成を具備すると認められないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。

(原告の主張について)

原告は、イ号方法に使用されているロータリーシフターは軸を中心として水平回転運動を行い、あるいは所望の目的物を相互に摩擦接触させることによって、篩いにかけて所望の目的物と取り除かれるべき夾雑物とを選り分ける機械であり、ロータリーシフターのローリング(回転運動)作用によって、大豆の表面が相互に摩擦されて「ブラッシング」の行われることは、甲第一一号証に、「まず洗浄装置Aにおいて原料タンク1から一定量の大豆を取り出してコンベヤ等の移送手段により研磨機2に送り込み、ここで大豆表面をブラッシングしつつ付着した塵埃を除去する。この研磨機2には、様々な手段が採用できるが、内面にブラシを設けた円筒部材中に該大豆を導入し、該円筒部材をローリングしてブラシと大豆あるいは大豆と大豆を摩擦接触させて該大豆表面をブラッシングする手段が簡単でもあり大豆を破損せずしかも余分な水分を与えない点で望ましい。」(3欄29行~38行)と記載されていることからも明らかであり、ロータリーシフターのローリング作用(水平回転運動)によって、大豆と大豆を摩擦接触させることにより、大豆表面から塵埃等を取り除くことも本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」に包含され、イ号方法は本件発明の構成要件Aの「ブラッシング処理」の構成を具備する旨主張する。

しかしながら、右主張は前判示に照らし採用できないことは明らかである。なお、原告指摘の公報(甲一一)記載部分について付言すると、「この研磨機2には、様々な手段が採用できるが、内面にブラシを設けた円筒部材中に該大豆を導入し、該円筒部材をローリングしてブラシと大豆あるいは大豆と大豆を摩擦接触させて該大豆表面をブラッシングする手段が簡単でもあり大豆を破損せずしかも余分な水分を与えない点で望ましい。」(3欄32行~38行)と記載され、そこでいう「ブラッシングする手段」とは、具体的には「内面にブラシを設けた円筒部材に大豆を投入した後円筒部材をローリングさせること」であり、その結果「ブラシと大豆あるいは大豆と大豆」の摩擦接触の効果が生じると記載されているのであって、右公報記載がブラシなしで単に「大豆と大豆」を相互に摩擦接触させるだけの場合、すなわち、例えば内面にブラシを設けていない円筒部材の中に大豆を入れ、円筒部材をローリングさせるだけの構成をそこでいう「ブラッシング」の概念に含める趣旨で記載されているものとは認め難い。すなわち、古来、「粒の大小によって選択・分離する、底に金網などを張った道具」である「篩」が日常生活においても使用されており、その場合、「篩」の粒形を揃える効果に付随して、粒同士が相互に摩擦接触して幾許かの粒々研磨の効果を生じるであろうことは否定できないが、右発明で用いられている研磨機2の構造に照らして考えると、右粒々研磨のみによって実用に耐えるような大豆表面の研磨効果を奏し得るものとは到底認め難い。したがって、その点を踏まえて、「内面にブラシを設けた円筒部材中に該大豆を導入し、該円筒部材をローリングして………該大豆表面をブラッシングする手段が簡単でもあり大豆を破損せずしかも余分な水分を与えない点で望ましい。」との前記公報記載を合理的に解釈すれば、右記載は、右発明が当初から「大豆と大豆」を相互に摩擦接触させて大豆表面をブラッシングする作用効果を奏することをその本質的目的として創作・認識されたことを示すものとはいえず、むしろ、結果的に一部そのような付随的作用効果をも奏するものと説明しているにすぎないものと理解すべきである。

結局、「従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去出来なかった耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来」るという本件発明の作用効果は、前示のとおり、ブラシによって大豆表面を摩擦研磨するという構成をとることによって初めて合理的に説明し得る作用効果というべきである。そして、そのような作用効果の達成という技術的課題を解決するには、具体的な構成手法がいくつも想定されるところ(イ号方法の採用している短時間高温加熱殺菌処理もその一つというべきである。)、その中にあって、原告は、本件発明において、前記した意味の「ブラッシング」の構成を採択し、これを本件特許請求の範囲に記載して登録を得たものである以上、右記載に基づいて本件発明の技術的範囲を定めなければならないのは当然であり、右記載を無視することは許されない。したがって、本件考案とイ号方法とでは、原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するための技術的課題解決の具体的手法において、技術的構成を異にすることは明らかであり、両者の技術的思想は別異のものといわざるを得ない。

二  結語

以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)

目録(一)

(1) 米国産原料大豆をチェックを兼ねて風選・篩い分け、比重選別し、選別処理された原料大豆を熱風で加熱乾燥を行い、原料大豆に付着している土壌等を除去したのち、

(2) 原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう加熱器で約七〇℃ないし約一〇〇℃に加熱して水分量の調整をし、

(3) これを皮と身とに分離し、風選により皮と微粉とを分離し、篩い分けにより脱皮されていないものを分離して脱皮工程にリターンさせると共に、比重選別により夾雑物を再度選別除去し、大豆の身を四ツ割から八ツ割を含む大きさに粉砕して粒状物を得、

(4) この粒状物を圧扁ローラーで〇・二ないし〇・三mmの均一なフレーク状に加工する、

豆乳用フレークの製造方法。

目録(二)

(1) 米国産選別大豆を原料大豆とし、この原料大豆をチェックを兼ねて風選・篩い分け、比重選別し、

(2) 選別処理された原料大豆を摂氏六五度の熱風で約二ないし三時間加熱予備乾燥を行い、

(3) 二ないし三分間摂氏八〇度から一〇〇度の熱風で大豆の表面だけを加熱し、大豆に含まれる酵素の働きを失活させた後大豆を常温に下げ、

(4) 大豆を皮と身とに分離し、風選により皮と微粉とを分離し、篩い分けにより脱皮されていないものを分離して脱皮工程にリターンさせると共に、比重選別により金属等重いものを再度選別除去し、大豆の身を一〇ないし一五割れに粉砕して粒状物を得、

(5) この粒状物を圧扁ローラーで〇・二ないし〇・三mmの均一なフレーク状に加工する、

(6) 豆腐用フレーク大豆の製造方法。

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭61-48900

〈51〉Int.Cl.4A 23 L 1/20 識別記号 104 庁内整理番号 A-7115-4B Z-7115-4B 〈24〉〈44〉公告 昭和61年(1986)10月27日

発明の数 2

〈54〉発明の名称 豆乳製造に好適な食品の製法と製造装置

〈21〉特願 昭57-82182

〈22〉出願 昭57(1982)5月14日

〈65〉公開 昭58-198259

〈43〉昭58(1983)11月18日

〈72〉発明者 近嵐茂 札幌市北区新琴似6条2丁目6番17号

〈71〉出願人 近嵐茂 札幌市北区新琴似6条2丁目6番17号

〈74〉代理人 弁理士 川成靖夫

審査官 広田雅紀

〈56〉参考文献 特開 昭56-23860(JP、A) 特開 昭53-56348(JP、A)

〈57〉特許請求の範囲

1 ブラツシングによつて原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去したのち、当該原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう水分量の調整をし、これを皮と身とに分離すると共に、身を4ツ割から8ツ割に処理して得た粒状物を圧扁ローラーにて満べんなく分散されたフレーク状に構成したことを特徴とする豆乳製造に好適な食品の製法。

2 原料大豆からホコリ等を分離するセパレーター5に当該原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するためのブラツシングマシン7が連設され、上記ブラツシングマシン7には当該原料大豆の水分量を調整するためのバンド乾燥機13を連設し、上記バンド乾燥機13には原料大豆を4ツ割から8ツ割すると共に皮と身とを分離する脱皮機21が連結され、上記脱皮機にはセパレークー23を介して分級器24が連結され、上記分級器24には圧扁ローラー36が連結されていることを特徴とする豆乳製造に好適な食品の製造装置。

発明の詳細な説明

本発明は新規な構成を有する豆乳製造に好適な食品の製法とこの製法を直接実現するための装置を提供しようとするものである.

従来、豆乳の製法については原料大豆を洗浄したのち浸漬(夏季では10時間から15時間、冬季では18時間から24時間)し、これを粉砕、煮沸、〓過するなどの工程となつている。しかし、かかる製造工程であつては大変手間がかかることは当然であるが、水浸漬工程、粉砕工程(すなわちグラインダー工程)は一番のネツクとなつている。ましてや家庭で豆乳を作ることは不可能と言つても過言ではない.

本発明は、かかる問題を充分解決しようとするもので、以下図面を参照しながら、その1実施例の詳細を説明する。

第1発明の製法は下記の通りである。すなわち、ブラツシングにより原料大豆に付着している土壌や土壌菌を除去したのち、当該原料大豆の皮が身と分離しやすい状態になるよう水分量の調整をし、これを皮と身とに分離すると共に、身を4ツ割から8ツ割に処理して得た粒状物を圧扁ローラーにて満べんなく分散されたフレーク状に構成して製品を得る。なお、水分量の調整は皮が身と分離を容易ならしむると同時に身も乾燥し、フレークとした場合、低水分の貯蔵安定性ある製品とする。且水分量の調整は大豆蛋白質の熱変性を起さない温度で行なわなければならない。

Aは第2発明の製造装置である。そして、その構成は、原料大豆からホコリ等を分離するセパレーター5に当該原料大豆に付着している土壌及び土壌菌を除去するためのブラツシングマシン7が連設され、上記ブラツシングマシン7には当該原料大豆の水分量を調整するためのバンド乾燥機13を連設し、上記バンド乾燥機13には原料大豆を4ツ割から8ツ割すると共に皮と身とを分離する脱皮機21が連結され、上記脱皮機にはセパレーター23を介して分級器24が連結され、上記分級器24には扁扁ローラー36が連結されている。そこで、この装置Aの作動を詳細すると、

原料の丸大豆を原料投入口1より入れてバケツトエレベーター2で原料タンク3に送り込みロータリーフイーダー4で丸大豆を一定量づつ送り、セパレーター5でホコリ等と原料大豆を分離し、ホコリ等はフアン6で除去し原料大豆をブラシマシン7で土壌及び土壌菌を除去後バケツトエレベーター8でサービスタンク9を通つて予熱乾燥機10とバンド乾燥機13を55℃の一定温度に保つことで水分を除去する。この水分はバンド乾燥機13の回転速度により水分量の調整ができる。水分調整をした物はスクリユーコンベア16でバケツトエレベーター17へ送り、ストレージタンク18へ貯留し、スライドゲートで一定量づつをO型チエーンコンベア19へ送り、4ケ所のスライドゲート20で一定量を脱皮機21に送り皮と身を分離し、身は4ツ割から8ツ割にしたものをスクリユーコンベア22でセパレークー23に送り粉状と粒状を分離し、粒状は分級器24へ進めもう一度粉状と粒状に分けて、粉状はブロワー25によつて除去しサイクロン28を通つて脱皮貯留タンク32へ入る。残つた粒状ものはフアン27によつてストレージタンク34へ入り、そこから一定量がシントロンフイダー35により圧扁ローラー36に満べんなく分散されてフレーク状0.2m/m~0.4m/m間の製品を連続して生産し、ベルトコンベア37へ落し、バケツトエレベーター38で製品タンク39に送り、スライドゲート40の開放により自動計量機41にて袋詰にし製品が出来あがる。

このようにして得たフレーク状の豆乳製造に好適な食品(原料)はこののち、豆腐等製造業者や、適量に包装して各家庭用に販売することができる。

そこで、この食品の処理は

豆腐等の製造業者では、食品(原料)を加水混合(5分~10分)したのち煮釜で処理し、これをおから分離機にかけると豆乳が出来る.この豆乳を使用して豆腐、油揚などを製造する。各家庭では、たとえば食品(原料)50gを水200ccに入れ3分~5分ボイルしたのちこれをろ過することによつて家庭用豆乳を得ることができる。

本発明のものは上述の如く構成されているから

イ 従来豆腐豆乳業界で最も管理困難な丸大豆の洗浄、水浸漬、グラインダー工程が不要である.

ロ 豆腐、油揚、豆乳の製造工程が短縮され、即応性に富み計画生産が出来る。

ハ コクと旨味のある色沢良好な安定した製品が得られる。

ニ 諸設備が簡略化され豆洗浄装置、浸漬槽、グラインダー等が不要になり、工場スペースを有効に利用出来る。

ホ 上下水道、電力、労力が節減出来、特に廃水処理費が軽減される。

ヘ 原料大豆の精選工程でブラツシングされ脱皮されるため、従来方法の丸大豆を水で洗浄した位では除去出来なかつた耐熱性細菌(土壌菌、芽胞菌)を完全除去出来、従つて製品の日持ちがよく衛生的である。

ト おからも従来のものと比べ衛生的且色沢良好で各種食料品の増量材として利用出来る。

チ 大豆フレークの変質は水分の存在によつて促進される。又大豆蛋白質は加熱により熱変性を起し、水溶性蛋白質が著しく減少し豆腐、豆乳の原料には適さなくなる。この点本願のものは、含有する水溶性蛋白質を熱変性することなく水分量を調整する工程を有するので上述した蛋白質の変質と言つた問題を解決し、かつ、身と皮の分離を容易に出来る様にした。また、この工程によつて0.2mmの薄いフレークも長期貯蔵に耐えるものとすることが出来る。

など、数多くの利点を有する有用な発明と言うべきものである。なお、図中11は熱風炉、12は排気フアン、14は熱風炉、15は送風機、26はロータリーバルブ、29は調整ダンパー、30はブロワー、31はロータリーバルブ、33はバツクフイルターである。

図面の簡単な説明

図面は本発明の1実施例を示すもので、第1図は全体の構成図である。

A……第2発明の製造装置、5……セパレーター、7……ブラツシングマシン、13……バンド乾燥機、21……脱皮機、23……セパレータ

一、24……分級器、36……扁扁ローラー。

第1図

〈省略〉

図面

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特許公報

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